会えなくても、みんなで歌えるんだ。
MAM結成10周年記念 リモートアカペラ動画プロジェクト
武蔵野大学アカペラ同好会 “MAM” 第8期執行代部長
教育学科3年
黒崎圭祐
担当パート:ボイスパーカッション
“MAM”という愛称で呼ばれる武蔵野大学でいちばん大きなサークルがある。それが武蔵野大学アカペラ同好会(Musashino Acappella Movement)。あらゆる学部学科から集まる約140人の、歌うことが大好きなメンバーたちに、2020年、大きな壁が立ちはだかった。もう、僕たちは一緒に歌うことができないのか。部長、黒崎たちの葛藤と挑戦を取材した。
今年のMAM、どうなっちゃうの?
2020年4月、黒崎圭祐は悩んでいた。今年はMAMの10周年記念の年。そんな大事な年に、新型コロナウイルスが大流行。その影響で、予定されていた10周年記念LIVEの開催は延期。外出自粛が解けた後も、大学にすら登校できない状況の中で、対面でのサークル活動など当然認められず、思うような活動ができないでいたからだ。通常のサークル活動では、それぞれのバンド活動とは別に、月に2回みんなで集まって行われる全体会が開催されていた。コロナ流行後、zoomでの交流会は行われていたものの、全体会という唯一みんなで集まり一緒に歌うことができる場所も失われ、活動内容が一気に激減していた。黒崎にとって今年の活動が引退前の最後の年。「このまま、僕たちの代では何もできずに終わってしまうのだろうか。この10周年の節目に、何かみんなで残せるものはないのか。」そう自問自答する日々が続いていた。そんな時、黒崎は4年生の先輩幹部にヒントをもらい、リモートで行う10周年記念動画をみんなで作成したいと思い立った。
リモートアカペラ動画プロジェクト始動!
リモートアカペラ動画とは、個々で自分のパートを歌った音声と映像を撮影し、それを編集で合わせ、最終的に全員で歌っているように一つの動画を完成させるというものだ。10周年の節目に何か残したい。このような状況の中でも、みんなが楽しめるサークル活動をしたい。その想いで黒崎たちはリモートアカペラ動画の作成のために早速動き出した。4年生の幹部にも協力を仰ぎ、まずは出演者の募集から始めた。10周年の記念ということで、現役生に加え1期生から6期生までの歴代の先輩たちにも声をかけた。黒崎自身も動画編集は初めて。本当に完成させることができるのか自信はなく、呼びかけにメンバーが賛同してくれるのか不安だった。しかし届いたのは、たくさんの参加表明や応援のメッセージだった。「参加します!」「やりたい!」「10周年をこれで祝おう」。卒業生を含む総勢110人が参加してくれることになった。選んだ曲はLittle Glee Monsterの「STARTING OVER」。歌詞には“必ず会えるその時は今日みたいに踊ろう”とある。今の自分たちの状況と想いが重なり、この曲に決めた。
全員から届くデータが、バラバラ。
参加者も集まり、曲も決まり、曲のアレンジも完成して、順調に進んでいるかのように見えたこのプロジェクトだったが、対面では集まれない中での進行は、一筋縄ではいかなかった。まず、110人ものメンバーと正確に連絡を取り合うことに苦労した。直接会って話せないとなると、LINEなどのSNSのみで情報を伝えなければならない。文章だけでのやりとりは、なかなか返信がもらえなかったり、誤解が生まれたりすることもあった。やっとデータが送られてきたと思っても、110人からのデータは、規格通りに揃っていない。黒崎は音声の編集を担当。メンバーが集まって歌う場合、その場でマイク調整をし、合わせることができるのだが、この動画作成においては音量やテンポの調整、ノイズ除去などが必要だった。黒崎は、1ヶ月近くほぼ毎日パソコンと向き合い、一つ一つ丁寧に編集していった。大変な作業だったが、黒崎が途中で諦めることはなかった。「みんなが送ってくれた音声を何度も聞いていると、これまでの思い出やMAMへの想いが強く膨らんでいきました。」今は会えなくて辛い時期が続くけれど、こうして合わさると、みんなで歌える。離れていても、一緒にアカペラをすることができる。2020年9月、遂に110人の歌声が一つになった。
僕にとってかけがえのない、大切な場所。
完成した10周年記念動画は、2020年9月22日、TwitterとYouTubeにアップされた。「10周年だョ!全員集合」というタイトルと共に、コーラス、パーカッションの前奏シーンからスタート。その後、MAMメンバーが集まったり、メインボーカル1人になったり、画面は目まぐるしく変わっていく。曲が進むにつれて、“コロナ”と書かれた紙を破くメンバー、違う場所で撮影しているが画面上では向き合って歌っているような演出など、個性豊かなメンバーと凝った演出が登場。全体を通して、それぞれの歌の高いスキルはもちろん、身振り手振りを交えながら楽しそうに歌うそのエネルギッシュな姿から、画面越しでも、まるでライブハウスの中で間近で聴いているかのようなリアルさが感じられる動画だった。SNS上でも大きな反響を呼び、Twitterではたくさんの現役生やOB・OGにリツイートされた。「こんな素敵な企画でみんなでアカペラできて本当に嬉しい!」「良すぎて何回もリピートしてる」その文面は、MAMへの愛が感じられる、温かい言葉で溢れていた。大切な人のことを強く想い、勇気を出して起こす行動は、こんなにも周りに影響を与え、感動を生み出す。「MAMは僕にとってかけがえのない大切な場所です。大好きで大切なみんなと歌えたことを誇りに思います」。黒崎もツイートした。会えない中でも工夫しながら動画を完成させたことは、コロナ禍の中でのサークル活動の新しい可能性を学内外に示した。心の繋がりの尊さ、アカペラの素晴らしさ、可能性を伝えてくれたMAMの今後の活躍には、目が離せない。
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